LOGIN真藤くんと真藤町長は二人並ぶとたしかによく似ていた。
顔自体はそこまで似ていないのだけど、よく笑うところとか雰囲気から親子の血のつながりを感じる。「こっちは……大学の友達かな?」
「サークルの先輩だよ」笑顔を向けてきた町長に答えようとした私たちを制するように、真藤くんが先に口を挟んだ。
どうして嘘をつくのかわからないけれど、いつもと違う真藤くんの様子を見て私たちは話を合わせることにする。その後もいくつか会話を交わしていた二人の間には不思議な空気が流れていた。
終始にこやかに話しかける町長に対して真藤くんは面倒臭そうな返答をし続けているのだ。 まるで早くこの場を立ち去りたいかのように……。「ところで怜太、母さんは元気か?」
「ええ、おかげさまでこの通りよ」不意に私たちの後ろから声が聞こえた。
驚いて振り向くとそこに立っていたのは小津骨さんだ。「え
私が伏木分室に入ると、奥の部屋から男の人と小津骨さんが話している声が漏れ聞こえていた。 真藤くんとは違う声っぽいけど、始業前なのにお客さんだろうか? お客さんなんて滅多に来ないのになぁ、と思いながらいつもの仕事部屋に入ると、結城ちゃんが壁に耳を押し付けて隣の話を盗み聞こうとしているところだった。「あ、香塚先輩! ワタシ、さっき見ちゃったんです。小津骨さんがスーツ姿のおじさんと奥の部屋に入っていくところ!」「依頼者さんかな? なんか珍しいよね」「グレーヘアをオールバックにした真面目! って感じの人でしたよ。そんな人が怪奇現象対策課なんて怪しい名前のところに来るかなぁ……?」 たしかに、頭の固そうなおじさんはこういう所に来るイメージはないかも。「真藤くんは何か聞いたりしてないの?」「聞いてないっスー。朝来たらもうおじさんが立ってて、おつぼねさんと奥の部屋に行っちゃったっス」 まさかの一番乗りだったとは。 それにしても気になるのが……――。「真藤くんさ、どうして小津骨さんのことを『お局さん』なんて呼ぶの?」 毎回怒られるのをわかっていてその呼び方をするってことは、親子であるが故の照れ隠し? なんか、真藤くんってそういうタイプじゃない気がするんだけどなあ。「え? おつぼねさんだからおつぼねさんって呼んでるだけっスよ?」 え? もしかして私が勘違いしてただけで小津骨さんってあの字で「おつぼね」って読むの? でも自己紹介の時にしっかり「おつほね」って名乗ってたよね?「一番年取ってて偉いオバサンを『おつぼねさん』って呼ぶっス。ドラマで見たっスよ。もしかして、こーづかさん知らないっスか?」「……あ、え?」 真藤くん?? お局さんって言葉は現実よりドラマの世界で聞くことが多いのはわかるけど、なんかちょっと違う覚え方してる気がするなぁ。「真藤
気が付くと私は大きなお屋敷の前にいた。 後ろには立派な門があり、広い庭もある大きな洋館だ。 どこからともなく甘いような不思議な香りが漂ってくる。「すみませーん、どなたかいませんかー?」 呼びかけながらドアを押すと、鍵は開いていたようですんなりと大きな扉が開いた。「いらっしゃいませ。ようこそ、夢の図書館へ」 ドレスの脇をつまんで、ちょこりと会釈をする十代前半と思われる少女。 リボンが蝶の翅のようにふわりと揺れた。「わたくしはリーリエ。この図書館の司書をしております」「あ、こ、香塚です」 リーリエと名乗ったのはいわゆるゴスロリのような恰好をした、十代前半くらいの少女だ。 透き通るように白い肌と黒いドレスのコントラストと、人形のように整った顔立ちに目が釘付けになる。 少女は胸の辺りまで伸びた黒髪をハーフアップにして、髪色と同じドレスを身に着けている。 ドレスの裾や袖口のレースは何段にも重ねられ、まるで花のよう。 頭上のリボンはその香りに誘われて舞い降りた蝶のようだ。「リリ? 誰か来たのかい?」 声がした方を見ると、ひとりの青年がこちらへ向かってくるところだった。 黒いスーツベストを着た赤茶色の髪の青年。 その顔にはまだ幼さが残っている。「すい」 リーリエちゃんは青年の方へとことこと駆け寄っていき小声で何かを伝えている。「香塚様、ようこそ夢の図書館へ。本館の管理人をしています。芙蓉睡と申します」「フヨウさん……?」 なかなか聞かない珍しい名前だ。「蓮の花の別名だそうですよ。あ、呼びづらければ睡で構いません」 柔らかに微笑みながら教えてくれた睡さんは私を屋敷の中へと案内してくれる。「わぁぁぁぁぁ……」 屋敷の中に入った私は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。 三階まで吹き抜けになった
快気祝いと称してかなちゃんに呼び出されたのはキッカイ町の海側である布佳海地区にある居酒屋だった。 なんでも予約の取れない店として一部では有名な店らしく、かなちゃんがここを予約したのも半年前だったとか。 ……ってあれ? なんか辻褄が合わない気がするけど?? まあ、どの料理もすごく美味しかったからいいか。 そして、そのまま二軒目、三軒目とはしごをしていき、気が付いた時にはかなちゃんはすっかり出来上がっていた。「こーづかちゃん、本っ当に無茶はしちゃダメだよ?」 酔っ払ったかなちゃんが何度目かの同じセリフを口にして私を抱きしめる。 本当の本当に私のケガのことを心配してくれていたみたいだ。「わかってますって! さすがにこれだけ痛い目に遭ったらもうやりませんよ~」 私も何度目かの同じ返事をして、残っていたしめ鯖と日本酒を一気に流し込んだ。 頭がポーっとふわーっとして気持ちいい。 けど今何時だろう? 何気なくスマホの画面を覗いて、しまったと思った。「かなちゃん! 大変です! 日付変わってる!!」 ぼんやりしているかなちゃんにスマホを見せるけれど、かなちゃんもぽやっとしていてふんふんとご機嫌な相槌を打つだけだった。 今月はケガのせいで入院したり手術を受けたりいろいろと出費が多いから、せめて往復の交通費を浮かせるためにバス移動にしようと思ったのに……。 最終バスはもう二時間以上前に行ってしまったらしい。「諦めてタクシーでも使いますかぁ……」「じゃぁあたひあつかん~」 そうと決まればもう一杯。 ろれつが回らなくなっているかなちゃんの代わりに私が注文をし終えた時、お店のドアが開いた。 この時間にも新しいお客さんが来るんだなぁ、と思って入り口の方へ視線を向けると、そこに立っていたのはスーツ姿の男の人だった。 その人は私たちが座るカウンター席にまっすぐ向かってくる。 常連さ
「お、おはようございます……」 週が明け、右手をギプスで固定された私は赤面しながら伏木分室に入った。 人生初の除霊で人生初の骨折をし、人生初の入院と手術を終えた。 ケガをしたのが利き手だからしばらくは不自由な生活になるけれど、こればっかりは自業自得だから仕方がない。「うわぁ……思ったより酷いことになってますね」 私の手を見てぎゅっと顔を歪める結城ちゃん。 その横でワクワク顔の真藤くんが油性ペンを握りしめているのはなぜだろう?「香塚さん、おはよう。 みんな揃ったし、瀬田さんから届いた手紙を見ましょうか」 そう言って小津骨さんが持ってきたのは、厚さ三センチはありそうなA4サイズの分厚い封筒だった。 表面には大きな赤い文字で「重要書類在中」と書き付けられている。 瀬田さんの筆跡なのだろうか。 とても綺麗な字だ。 大きな封筒の中には私たち一人一人の名前が書かれた茶封筒と、数種類のお札が入っているクリアファイル、あとは表紙にでかでかと「機密文書」と書かれた冊子が一冊入っていた。「これは……瀬田さん独自の怪異対処マニュアルね」 いかにも仰々しい雰囲気の機密文書をパラパラと流し読みしていた小津骨さんが呟く。 これが外部に流出することは絶対に許されないので、小津骨さんがきっちりと管理してくれるようだ。 次に、私たちはそれぞれ自分の名前が書かれた封筒を受け取って中身を確認することになった。 中に入っていたのは二枚の紙。 香塚妙様 視認・D 接触・B 対話・E 除霊・SSS 総合・B+ 一枚目に書かれていたのはそれだけ。 もう一枚はA4サイズの紙に細かい文字でぎっちりと書き込まれている。
排気口の中から髪の毛の塊を引きずり出す試験に続き、今度はコレを浄化する試験。 アパートでやると迷惑になりかねないので、歩いて数分のところにある小さな公園に場所が移された。「一般的な除霊に用いられる道具がひと揃えしてありますので、お好きなものを使ってください」 そう言って瀬田さんは車のトランクルームに積んでいたキャリーバッグを開ける。 そこには御神酒や数珠、清めの塩から十字架や前に壁のシミを取った時に真藤くんが使っていたような聖水の瓶もある。 あとは使い道がわからない道具も多数。 今回は時間がかかることを想定して、全員で一斉に開始することになった。 みんな緊張した顔をしている。「あの、一つ聞いてもいいですか?」「なんですか? 香塚さん」「この髪の毛の塊って本当に怪異ですか?」「髪の、かたまり……?」 結城ちゃんがポカンとして首をかしげる。 すると、瀬田さんが「ああ」と声を漏らした。「すみません。皆さんコレがきちんと視えているものだと思っていました。先にそれぞれ見えているモノの状態を説明してもらいましょうか」「え? 髪の毛の塊じゃないんですか?」 私の言葉を否定するように、他の三人が次々に口を開いた。「いや、生首っスよ」「そうね。恨めし気な顔をした女性の生首だわ」「はい。泣きぼくろがあって、生きてた頃はモテてそうな若い女の人です」 えぇ……。 みんなにはそういう風に見えていたんだ。 そりゃ掴むのに躊躇するよね。 見え方に多少の違いはあるようだけど、私以外にはそれが人間の頭部だとわかっていたらしい。 昔から霊感がない自覚はあったけどちょっと悔しいなぁ。「視るのと祓うのは別ですから、とりあえずやってみましょう」 瀬田さんに促され、私たちはそれぞれの前に置かれた頭部(……らしいもの)に対峙した。 …&h
「それにしても、キッカイ町は面白い場所ですねえ」 移動の車中、瀬田さんは顎を撫でながら満面の笑みを浮かべる。 ほら、と言いながら見せられたのはスマホの待ち受け画面だ。 特に変わりは無いように見えるけど……。「見てください。7Gですよ! 飛んじゃいけないものが飛んでます」 言われて初めて気付いた。 画面の左上、受信中の電波マークの隣には「7G」と表示されている。 当然のように私のスマホも……。「あれ? 5Gが最新でしたよね??」「そうね。だけどこの辺はまだ基地局が出来てないから4Gしか飛んでないはずよ」 助手席に座る小津骨さんはバッグにしまっていたスマホを取り出し、ちらりと画面を確認していた。 通信速度が変わったりしないから今の今まで気付かなかったけれど、一体何が起こっているんだろう。「7Gって何なんですかねぇ? ……あ」 詳細を見られたりしないかなと思いながら「7G」の文字をつついていると文字がクシャっと歪んで形を変えた。 次に現れたのは見慣れた「4G」の表示だ。「直りました」 驚いて画面を見せると、瀬田さんはさらに笑顔になった。「こういう怪異はですね、気付かれると逃げ出すものなんですよ」 ニコニコしながら逃げられる前にとスクショを撮っている。 どうしてこの人はこんなに嬉しそうなんだろう。 こういうとこ、結城ちゃんと似ているなぁ。 ……あ。 もしかして瀬田さんのところの神様が結城ちゃんを選んだのってそういう理由? だとしたら縁結びの神様としての力はすごいのかも。 一方、神様の能力から解放された結城ちゃんは少しぼーっとした様子で窓の外を眺めている。 いつもより静かでちょっと安心だ。「着いたっスよ〜」 真藤くんが







